第一巻の序文


この本で勉強されるかたに

 音楽的にすぐれていて、しかも習いやすく教えやすい日本版のフルート教則本を出版したいというのは、私の長年の夢であり、希望でもあった。
 今までに、世界中で様々なフルートのための教則本が出版されたが「アルテ教則本」ほど多くの国で用いられ、多勢の名演奏家たちを育てた教則本はないといっても良い。アルテの長い経験は、驚くほどに音楽の理解を深め、演奏技術をやさしくおぼえさせる。しかし、日本では輸入楽譜であったのであまりに高価なことヽ、外国語であることが利用する人を少なくしていたのである。
 日本のフルート愛好者も日を追って増加し、フルートを学ぶ人のふえつヽある現在、改めて本格的な教則本を出版する必要を感じ、相当の大冊にもかヽわらず、特にこの「アルテ教則本」にこまかい解説を加えて出版しようと思い立ったのである。
 音楽の勉強は何の楽器でも、教師の直接の指導が上達の早道であることはいうまでもないが、リズムと音程を正しく理解させるには、いつも教師との二重奏練習が必要で、本格的な教則本はほとんど二重奏を主としている。
 この本の大部分が二重奏形式なので独習のための教本ではないが、フルートの専門的なことは充分に解説したから、フルート教師につけない場合は、ヴァイオリンやピアノ、オルガンなどの教師についても勉強することができよう。
 第一巻はフルートの構造、取り扱い及び普通の指使いによる全音域の基礎練習を主とし、それに第二巻に移るための練習とガリボルディのミニオンエチュードを加えた。
 第二巻は一般技術編で、音階、長調短調のすべて、装飾音、トリルなど普通の演奏に必要な技術を身につけるための練習のほかに、楽器の調整と修理の方法を解説した。
 第三巻は高等技術編で、各種のタンギングや特別な指使い、ハーモニックス、ビブラート、替指等の高級技術にわたっている。
 最近フランス語で発刊されているアルテ教本は、四巻に改編されているが、この日本語版ではもとの原本から楽典をはぶき、近代的テクニック等必要なものを新たに加えて初めのまヽの全三巻としたから、市販の楽典をあわせて勉強されるようにおすヽめする。
 なお、各課の初めに、その課に必要な基本の練習を入れ、わかりやすい解説をつけて地方の初心者にも完全に理解できるように努力したつもりである。
 この本を出版するために種々助言して下さった吉田雅夫兄故村松孝一氏、また綿密な校閲をして下さった恩師奥好寛先生をはじめフルートクラブの特別会員の方達及び参考資料の翻訳をお願いした楽友安田幸男君に厚くお礼申し上げる次第である。

      昭和35年5月
                    比田井 洵